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(1)概要

 

「政府はこのほど、専門職に就き、高収入を得ている人を労働基準法の時間規制から外す「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」、いわゆる「残業代ゼロ制度」を盛り込んだ労働基準法改正案を閣議決定した。

残業代ゼロ制度の対象は、為替ディーラーや研究開発など、高度の専門的知識を必要とする業務に従事し、平均年収の3倍額を相当程度上回る人(年収1,075万円以上を想定)。健康確保措置等を講じること、本人の同意や委員会の決議等を要件として、1日8時間、週40時間などの労働基準法の時間規制から除外し、休日、深夜の労働手当を支払わないようにする。

その上で働き過ぎを防ぐため、「始業から24時間以内に一定の休息を確保し、かつ1カ月当たりの深夜労働の回数を厚生労働省令で定める回数以内とすること」「健康管理時間を1カ月または3カ月について、それぞれ省令で定める時間を超えない範囲とすること」「年間104日以上の休日、かつ4週間で4日以上の休日」のいずれかの措置をとる。また、在社時間が一定時間を超える場合には、事業者はその労働者に必ず医師による面接指導を受けさせるようにする。」

http://news.mynavi.jp/news/2015/04/06/118/より引用)

 

「年収1075万円以上の高度な専門職に就いている労働者のうち、希望者について労働基準法の定める労働時間規制から除外することのできる制度」

 

(2)歴史

 

1994年 日経連(現・日本経団連)が提言「裁量労働制の見直しについて」発表。

米国の制度を参考に「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入、ホワイトカラー全体への裁量労働制の導入を提言。

 

2005年 経団連、提言「ホワイトカラー・エグゼンプション導入について」を発表。

 

2006年 世論の強い反発を受け、政府が「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度導入を断念。
安倍首相(第一次)「現時点では、国民の理解が得られていない」

 

2013年 第二回規制改革会議に雇用制度改革案の文書が示される。
ホワイトカラー・エグゼンプションの導入や、裁量労働制の導入拡大などを求める

 

2015年 政府、「労働基準法等の一部を改正する法律案」を閣議決定。
ホワイトカラー・エグゼンプションの導入、企画型裁量労働制などが盛り込まれる。

 

最近になっていきなり話題に出たわけではなく、20年近く前から財界を中心に「ホワイトカラー・エグゼンプション」「企画型裁量労働制導入拡大」を求める動きがあった。安倍晋三首相は、常にその先頭に立ってきた政治家の一人である。

 

(3)「ホワイトカラー・エグゼンプション」「企画型裁量労働制」とは?

 

Ⅰ,ホワイトカラー・エグゼンプションとは

現在米国で導入されている雇用制度。

 

 

※日米雇用制度簡易比較

 

・日本 ‐労働基準法

 残業代時間外に労働させた場合(1か月に60時間以内)には2割5分以上、 1か月60時間を超えて時間外に労働させた場合には、5割以上(※中小企業については適用猶予のため2割5分以上)、深夜(原則として午後10時~午前5時)に労働させた場合には2割5分以上、法定休日に労働させた場合には3割5分以上の割増賃金を支払わなければならない。

 

・米国‐公正労働基準法

週40時間を超える労働については、5割の以上の割増賃金を支払わなければならない。
なお、ホワイトカラーの広い範囲について、使用者の残業代の支払い義務を免除する規定あり。(=ホワイトカラー・エグゼンプション)

 

Ⅱ,企画型裁量労働制とは

「裁量労働制」とは、あらかじめ残業代を基本給の中に組み込んでおく賃金制度。

これまでその対象は商品や技術開発などの専門業務に限られていたが、「企画型裁量労働制」の導入によって、たとえば法人向けの営業マンも対象となる。

 

(4)問題点

 

1、マスコミ報道は「成果主義賃金の導入」というが・・・

 

「政府は3日午前の閣議で、働いた時間ではなく、成果に応じて賃金を決める「脱時間給(高度プロフェッショナル)制度」の創設を柱とする労働基準法改正案を決定した。」

読売新聞ーhttp://www.yomiuri.co.jp/job/news/20150403-OYT8T50088.html

「政府は3日の閣議で、労働時間ではなく仕事の成果に応じて賃金を決める新たな労働制度「高度プロフェッショナル制度」(ホワイトカラーエグゼンプション)の導入を柱とした労働基準法改正案を決定した。」

産経ニュースーhttp://www.sankei.com/politics/news/150403/plt1504030028-n1.html

「制度が適用された人は賃金が労働時間ではなく成果に応じて決まるため残業代が支払われなくなります。」

テレビ東京ーhttp://www.tv-tokyo.co.jp/mv/wbs/news/post_87577/

 

テレビや新聞などマスコミ各社の報道では、今回の労基法改正案によって「成果主義賃金」が導入される、とされています。しかし、政府の提出した法案の要綱、法律案全文を読んでみると、「労働時間と成果が必ずしも一致しない職種に対し残業代をゼロとする」旨記載があるだけで、「成果に応じた賃金を支払うこととする」旨の記載など、どこにもないのです。

 

↓法律案要綱

http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11201250-Roudoukijunkyoku-Roudoujoukenseisakuka/0000075870.pdf

 

法律案のなかに「成果主義賃金の導入」などという文句はどこにもなければ、「成果」の明確な基準も当然示されていない。このような法律案が通ってしまえば、ただ残業代がゼロになるだけ、しかも基準なき「成果」のために、かえって労働量が増えてしまうような結果になりかねません。

 

2、「年収1075万円以上」の信頼性

 

政府は、いわゆる「ホワイトカラー・エグゼンプション」適用の基準について「年収1075万円以上の高度な技術を必要とする専門職」と定義していますが、この基準にどこまで信頼性があるのでしょうか。

 

「経団連の榊原定征会長は6日の記者会見で、高収入の専門職で働く人を残業代の支払いなど時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」について「制度が適用される範囲をできるだけ広げていっていただきたい」と述べ、将来的に年収の要件緩和や対象職種の拡大が必要になるとの見解を示した。」

http://www.47news.jp/CN/201504/CN2015040601002349.html

 

法案が可決される前から、すでの対象拡大の話が出始めています。また、日本経団連に関して言えば、先に挙げた2005年の「ホワイトカラー・エグゼンプション導入について」の中で、対象要件を「年収400万円以上」と設定しています。

 

「さらに竹中平蔵氏は、同一労働同一賃金について「(実現を目指すなら)正社員をなくしましょうって、やっぱね言わなきゃいけない」「全員を正社員にしようとしたから大変なことになったんですよ」と、日本の問題点を指摘した。」

http://news.livedoor.com/article/detail/9634197/

 

慶応義塾大学教授の竹中平蔵氏は、「日本経済再生本部」傘下の「産業競争力会議」の民間議員として、政府の規制改革にも深くかかわっている人物です。そのような地位にある人物が、このような発言を恥ずかしげもなく堂々とテレビで言ってしまうとは、政権内部にもこのような本音があるのではないか、とうかがわせます。

また、「派遣労働者」が当時、秘書や通訳など狭い範囲の専門業務に限られていたはずが、なし崩し的に適用範囲を拡大され、今や116万人にまで膨れ上がった事実をかんがみれば、「年収1075万円以上」という年収要件に対する信頼性は全くない、ということは明らかではないでしょうか。

また、年収要件が定められているのは「ホワイトカラー・エグゼンプション」についてのみで、企画型裁量労働制については年収要件は定められていません。労働者の残業代が「ゼロ」になる危険が、もうすぐそこまで迫ってきているのです。

 

3、米国ではホワイトカラー・エグゼンプション適用者は、非適用者よりも労働時間が長い傾向にある

 

日弁連のアメリカ視察に参加した、京都弁護士会所属の中村一雄弁護士の報告によれば、米国では、ホワイトカラー・エグゼンプション制度利用者の労働時間は、非適用者よりも長い傾向にある、といいます。

 

「今回の調査で、アメリカの制度についての客観的資料をいくつか頂き、イグゼンプト労働者(残業代なし)の労働時間は,ノンイグゼンプト労働者(残業代あり)の労働時間よりかなり長い傾向にあることが明確になりました。

日本の導入論者が主張する「残業代がもらえなくなれば残業時間は減る」という考えは、アメリカでは実証的に嘘であることが明らかになっています。

さらに、アメリカでは、あまりにも広範囲にひろがってしまったアメリカのイグゼンプションに対して、近く労働省令の改正によって大きな制限がなされる予定です。改正方向の概要も各方面から教えてもらえました。」

http://neo-city.jp/blog/2015/02/post-315.html

 

「労働基準法の改正は、働きすぎの抑止が目的」と喧伝している政府・与党は、この事実にしっかり向き合うべきです。

 

 

 

 

 

 

参考文献

 

「いのちが危ない残業代ゼロ制度」岩波ブックレット

 

「定額働かせ放題」制度・全文チェック!~繰り返される「成果に応じて賃金を支払う新たな制度」という誤報

http://bylines.news.yahoo.co.jp/sasakiryo/20150403-00044515/

 

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