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日本若者党「子どもの貧困」について

 

日本若者党

 

はじめに

 

日本若者党は、「若者を大切にする政治」の実現を目指すネット政党である。今日の日本では、「社会保障」というと、すでに現役を引退した高齢者の生活を保障するための給付、というイメージが強いかもしれない。たしかに、少子高齢化の進むいま、高齢者の生活を国家の責任においてどう守っていくか、というのは重要な政策課題である。しかし、そんな今だからこそ、むしろ未来への投資をしっかりして、衰退しつつある我が国の未来へ希望をつなごう、という理念のもとに結成されたのが若者党である。

その若者党の理念に立ち返れば、子どもの6人に1人が貧困状態に置かれている、という状況は、一刻も早く解決されねばならない、我が国にとっての最重要課題であることは言うまでもない。子どもの貧困問題は、単に金銭的な問題というだけでなく、その子どもの一生涯にとって重大な悪影響を及ぼすものである。また、その解決策は、家庭への金銭的援助というだけでは必ずしも十分ではない。日本若者党は、インターネット政党として、子どもの貧困の現状と、わが党の考える解決策を、インターネットを通じて社会に周知し、ひいては政治の意識を変革することを目的として、この「子どもの貧困対策案」を発表するものである。

 

 

(1)子どもの貧困の現状

 

我が国では、子どもの貧困率は右肩上がりに上昇が続いており、内閣府の発表した「子ども・若者白書」平成26年版(最新)によると、子どもの貧困率は15.7%と過去最悪を記録した。また、子どものいる現役世帯の貧困率は14.6%、単親家庭に至っては50.8%もの家庭が貧困の状況下にある。これは、OECD加盟国の平均を上回るもので、世界第3位の経済大国として恥ずべき状況である(ただし、相対的貧困率は先進国ほど高く出る傾向がある)。[1]

就学援助率もほぼ右肩上がりに上昇しており、平成7年には6.1%だったが、平成24年には15.64%を記録した。[2]

単親家庭の中でも、母子家庭の困窮の現状は緊迫している。母子世帯に属する子どもの相対的貧困率は、やや改善の傾向にあるものの、平成22年では50%台後半の高水準を維持している。[3]

 

 

(2)子どもの貧困の何が問題なのか?

 

1、経済的に困窮している家庭の子どもは、自己肯定感が低い。

 

同志社大学社会福祉教育研究センターのまとめた「大阪子ども調査」の結果を見ると、家庭の経済的な状況と、子どもの自己肯定間には密接な関係があることがうかがえる。[4]

たとえば、「頑張れば報われると思うか」との質問に、「そうは思わない」と答えた割合は、非貧困層の子どもでは4%なのに対し、貧困層の子どもでは8%。2倍もの開きがある。また、「自分の将来が楽しみか?」との質問に対し、「そうは思わない」と答えた割合は、非貧困層の子どもでは6%なのに対し、貧困層の子どもでは10%。ここでも、2倍近い差が認められる。

 

また、内閣府が平成23年に、全国のの中学生とその保護者に対し行った「親と子の生活意識に関する調査」は、それを学歴の面から浮き彫りにしている。[5]

将来、「大学までの進学を希望する」と答えた子どもの割合は、非貧困層では61%なのに対し、貧困層では33%。ここにも2倍近い差を認めることができまる。

また、自身の希望とは違い、「現実的には、自分はどの学歴まで行くことができると思うか?」との問いに対し、非貧困層の子どもで「自分は大学まで行くことができる」と答えた生徒の割合は56%なのに対し、貧困層の子どもでは26.8%。2倍近い差がある。

 

これらの結果から、経済的に困窮している家庭の子どもは、そうでない家庭の子どもに比べて、自分に対する期待、自己肯定感が低く、自分の将来について希望が持てず、あきらめてしまっている割合が非常に高いということが言える。つまり、子どもの貧困とは、単に経済的な困窮によって必要な教材が購入できない、などといった物質的な側面にとどまらず、それが子どもの精神にも重大な悪影響を及ぼす可能性をもはらんでいるのだ。

 

2、貧困層の子どもと非貧困層の子どもでは、健康格差がある。

 

2013年に、国立社会保障・人口問題研究所が行った分析によって、我が国においても、親の所得によって子どもの健康に格差が生じていることが明らかとなった。[6]

この調査の結果によれば、貧困層の子どもは、そうでない家庭の子どもに比べて、1~6歳までに入院を経験した子どもの割合が、すべての年齢で1.1~1.3倍高いことが明らかとなっている。貧困層の子どもの親は、母子・父子の単親家庭が多いために、一人の親が一家の大黒柱として生計を支えていることが多く、親が仕事を休み、子どもを早い段階で病院へ連れて行き、医師の診察を受けさせることが、非貧困家庭に比べ困難である場合が多い。その結果、子どもの病気が悪化してしまうことが、その原因として考えられる。パート・アルバイト、派遣のような非正規労働によって生計を立てている家庭なら、なおさらだ。

つまり、問題は、単に医療費の助成といった金銭的なケアによってのみ解決されるものではなく、労働環境の問題なども含んだ問題であることがわかる。

 

 

3、家庭の所得と子どもの学力は比例する

 

家庭の所得と子どもの学力は比例するというデータもある[7]。世帯年収が低い家庭の子どもほど、学力が低い傾向にあるという。

考えられる原因としては、貧困層の家庭は、子どもを学習塾へ通わせるだけの経済的な余裕がなく、結果、学習塾へ通っている富裕層・中流層の子どもたちとの間に学力格差が生じているということがある。経済的な格差が、子どもの学力にまで影響を及ぼしているという現状があることは明白である。

 

ここまでに何度も指摘している通り、子どもの貧困問題は、単に金銭的に困窮しているというだけが問題ではない。経済状況の悪い家庭に育った子どもはそうでない家庭の子どもに比べて、生涯賃金が低い傾向にある・健康状態が悪い傾向にある・将来の夢がないと答える傾向にある・学力が低い傾向にあるなど、子ども時代の経済的困窮は一生涯にわたる心身への悪影響をもたらすものである。その結果、経済的困窮家庭に育った子どもたちは、将来経済的に困窮し、その子どもたちは…と、貧困の連鎖が続いているのが現代日本の実情である(=機会の平等さえ奪われている)。

 

 

(3)子どもの貧困をなくす公的支出が圧倒的に欠けている日本

 

家族手当や出産休業給付など、いわゆる「家族関係支出」の我が国における対GDP比は、2007年時点で1.04%。対してヨーロッパでは、フランスで3.0%、イギリスが3.27%、スウェーデンが3.35%。比較的少ないイタリアで1.45%と、日本に比べてかなり高い水準を誇っている。教育に対する公的支出では、日本が5.15%なのに対し、ドイツで7.09%、フランスで8.9%、イギリスで9.81%、スウェーデンで10.55%。我が国は、「家庭」に対する公的支出、「教育」に対する公的支出、つまり「子どもの貧困」をなくす公的支出がいずれも低い水準にあり、親世代の貧困が子どもへと受け継がれてしまっている。

 

我が国では、あくまで教育は家庭=プライベートの責任である、という考え方がいまだに根強く残っている。しかしいうまでもなく、我が国の将来を背負って立つのは子どもたちであり、子どもたちが親の経済状況によって、能力にあった教育を受けることができないというのは、社会全体にとっても大きな損失であることは間違いない。そして、そういった考え方が、子どもの貧困を放置する一因にもなっているのではないか。

 

繰り返しになるが、彼らの貧困を放置していくことが、我が国にとって大きな損失になっている。もし彼らが、家庭の経済状況と関係なく、能力にあった教育を受けることができていたら?彼らの中から、我が国の未来を担う素晴らしい人材が育つかもしれない。貧困の中に彼らを封じ込めておいていいのでしょうか。いまこそ、「子どもの貧困」をなくす公的支出の大幅増と、日本社会全体の意識改革が求められている。

 

 

(4)子どもの貧困の放置は、財政の無駄遣いになる

 

実際に、子どもの貧困を放置することの社会的損失についての研究を、アメリカのノーベル経済学賞受賞者のロバート・ソローが行った。。ソローは、子ども時代に一年間貧困状態にあることにより、生涯賃金が1万2000ドル(約145万円)減額すると仮定したうえで、国内すべての貧困の子どもたちの貧困が1年間放置されることによる社会的損失を1769億ドル(約21兆円)と計算した。そのうえで、全米国勢調査のデータをもとに、1人当たり平均2800ドル(約38万円)あれば貧困から抜け出すことができるとして、すべての貧困の子どもが貧困状態から抜け出すのに必要な支援の額を400億ドル(約5兆円)としている。

 

つまり、この研究によれば、子どもを公的支援によって貧困から救出することの財政的負担は、子どもの貧困によってもたらされる社会的損失よりもはるかに軽いというのだ。

 

(5)具体的な政策提案

 

☆具体的な政策目標

 

子どもの貧困問題を考えるうえでは、具体的な政策目標を定め、それを達成するための政策を積み上げていくのが現実的な手段と考える。

子どもの貧困問題とかかわりの深いデータとして、所得再分配の前後で子どもの貧困率を比べた結果がある。[8]

これによれば、2000年代半ばまで、我が国では、むしろ再分配によって子どもの貧困率が悪化していた、つまり再分配機能が正当に機能していなかったことが確認されている。これは、2010年の調査においては改善が見られたものの、再分配に公的年金を含めずに計算するユニセフの調査結果では、日本においては依然、再分配後に子どもの貧困がより悪化していることが確認されている。この結果を踏まえ、まず再分配機能の正常化による子どもの貧困率の10%以下への引き下げを目標とするのが適切と考える。

 

☆「現金給付」か「現物給付」かの不毛な論争

 

近年、生活保護不正受給問題に対するインターネット上のいわゆる「ネトウヨ」や、それに迎合した一部右派政治家による生活保護バッシングが大変な論争を巻き起こした。それらの勢力は、「現金給付」は、結局のところパチンコなどの無駄遣い・浪費にあてられてしまい、国民の税金の不当な浪費を防止することができないので、「現物給付」――食料や衣服などを現物で給付する――への転換を図るべき、と主張した。

しかし、貧困状態にある家庭の状況は、一つ一つ異なっているわけで、食料や衣服を現物で給付するという案は、かゆいところに手が届かず、いささか非現実的であるうえ、現金給付は貧困世帯の状況の改善に資するという明確なデータが存在しているが、現物給付ではそのプログラムによって、現金給付以上の効果を生み出す場合があれば、その逆もある。どんな支援をしても、100%の効果を期待することはできない。であるならば、確実に一定の効果を期待することのできる現金給付を決して否定的に考えるべきではないと考える。また、現金給付は子どもではなく親に届くため、子どもの貧困の解決にとっては不適切という指摘もあるが、子どもの健全な成長にとって家庭の安定は不可欠な要素であり、貧困家庭への現金給付による支援は決して無駄なことではなく、むしろ子どもへ直結する支援である。

 

具体的な提案

 

1、児童扶養手当の拡充

 

片親世帯(とくに母子家庭)に対する給付である児童扶養手当を拡充する。

 

2、貧困層の子どもに対する学習支援の充実

 

埼玉県で実施され大きな効果が確認された「アスポート」を参考に、貧困層の子どもに対する学習支援を全国規模で拡充。

 

3、学童保育の対象年齢の拡大、普及

 

学童保育は現状小学3年生までが対象とされているが、対象年齢を原則小6まで拡大。また、保育料の減免措置を適用する。学童保育のない校区への普及を迅速に進める。

 

4、公立中高での給食提供

 

公立小学校では、ほとんどすべての学校で給食制度があるが、中高ではない場合が多い。子どもの栄養格差解消のため、公立中高での給食提供推進。

 

5、義務教育の完全無償化

 

日本国憲法によれば、義務教育はすべての子どもたちがひとしく受ける権利を持っており、学校生活の一部であるクラブ活動や給食費、修学旅行費などの負担を家庭に求めるのは、憲法の理念に反する。義務教育を完全無償化する。

 

6、高校の通学費や課外授業、クラブ活動費に対する助成拡大

 

クラブ活動や課外授業は高校教育の一環であり、高校の授業料無償化だけではまだ足りていない。進学を希望するすべての子どもが高校へ通えるように金銭的助成を拡大する。

 

7、教育予算の拡大

 

教育予算を増額し、子どもの貧困率の高い地域を中心に資源投下・人員増員。

 

8、少人数学級の拡大

 

教師の目がすべての子どもたちに届くよう、少人数学級の拡大を。

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