
(1)ブラック企業撲滅
今、異常な長時間労働やパワハラなどにより、若者を中心とした労働者を心身ともに追い詰め、ときに死に至らしめることもある「ブラック企業」が社会的な問題として取り上げられ、対策の必要性が叫ばれています。
どうして、そのような異常な「ブラック企業」は生まれたのでしょうか。その背景には、バブル崩壊や小泉改革などを経て、次第に変質していった日本型雇用の構造的問題があるようです。
日本型雇用の特徴は、大きく3つあるとされています。
1,企業の強い命令権
2,年功序列
3,終身雇用
つまり、企業の強い命令権に支配・束縛される代わり、真面目に勤めていれば基本的に昇給は約束されているし、リストラなどもほとんどない、ということです。
しかし、バブル崩壊や小泉構造改革、さらに労働組合の勢力退潮によって、企業内における労働者の力は衰退し、終身雇用や年功序列といった価値観は次第に崩壊してゆきました。にも関わらず、企業の強い命令権だけは、そのままの形で残されたのです。これが、ブラック企業という妖怪を産んだ素地であると言われています。バブル崩壊後、長らく続いた不景気の中、「代わりはいくらでもいる」と若者たちの弱みに漬け込み、彼らを骨の髄までしゃぶりつくし、使い物にならなくなったら捨ててしまう――ブラック企業は、まさに日本を食い潰す妖怪であると言えます。
ブラック企業撲滅のためには、個々の企業を取り締まることはもちろん、国が企業の横暴を許さぬよう積極的な取り組みをしてゆくことが重要です。具体的には、長時間労働を防止するため労働時間の上限規制などの対策が有効です。また、日本が他国に比べ著しく批准が遅れているILOの関連条約を早期に批准することも重要です。労働時間の上限規制は、EU諸国で行われている規制に学ぶことが適切です。
(2)労働者派遣法改正案反対
2015年3月15日、政府は労働者派遣法の改正案を国会へ提出しました。今国会で可決する見通し(3月23日時点)のこの法案に、日本若者党は断固反対します。
2月20日の衆議院予算委員会の質疑によれば、これまで労働者派遣法には、次のような原則がありました。
1,正社員を派遣へ置き換えてはならない
2,この原則を担保するため、派遣労働者の受け入れ期間は原則1年最大3年とする。
しかし、今回政府が提出した改正案は、この「原則1年最大3年」の受け入れ期間制限を撤廃し、人を変えさえすれば無制限に派遣労働者を雇用することができる、としています。原則では、「正社員を派遣へ置き換えてはならない」という原則を担保するために、この「原則1年最大3年」という規定を設けていたことを考えれば、この改正案がもたらす結果については、容易に想像がつくでしょう。
近年、我が国における非正規雇用の割合は大きく増大を続け、今では3人に1人が非正規雇用という現状があります。このことについてILO(国際労働機関)は、「世界賃金報告2014−15年版」の中で、日本の実質賃金が低迷しているのは非正規雇用の増大にその一因がある、としています。非正規雇用の増大は、我が国の景気低迷、格差拡大、さらにはそれに伴う少子化の加速など、我が国の大問題とリンクしています。
我が国が今なすべきことは、派遣労働・非正規雇用を拡大させる方策ではなく、まず同一労働・同一賃金を実現し、派遣労働者を原則正社員へと転換させることです。
(3)高度プロフェッショナル制度導入反対
先日、自民・公明両党の厚生労働部会て承認され、近く国会で提出される見通し(3月23日時点)の労働基準法改正案、通称「残業代ゼロ」法案に、日本若者党は断固として反対します。
今回の改正案では、いわゆる「高度プロフェッショナル制度」の導入が盛り込まれました。年収1075万円以上の労働者に対して、事前に希望した者を対象に、労働時間に対応して支払われていた賃金制度を改め、労働時間に関係なく成果に応じて賃金を支払うようにする制度です。
同じ改正案は、第一次安倍政権時にも提出されましたが、「過労死促進法案」など、世論の激しい抵抗を受け、ついに廃案になっています。今回の改正案は、当時の改正案をベースに、企業側の労働者に対する健康管理義務などを盛り込みました。
年収1075万円以上の労働者(25人に1人)が対象ならば大丈夫、という意見もありますが、日本経団連の榊原会長は「あまり限定せず、対象職種を広げる形で制度化を期待したい」(2014年6月12日、朝日新聞)と述べるなど、財界には対象の拡大を希望する声があります。一度風穴を開けられてしまえば、対象範囲の拡大は格段に容易になるでしょう。
さらに危険なのは、同改正案に盛り込まれた「裁量労働制」の拡大です。これは、残業代を予め基本給に盛り込んで計算する賃金制度のことです。
例えば、予め1時間分の残業代が基本給に組み込まれていたとすれば、残業をしなくても1時間分の残業代が受け取れる代わりに、2時間、3時間と残業をしても、残業代は1時間分しか受け取れません。ブラック企業で問題になった「固定残業代制」を法制化するものとして批判が続出しています。
この制度は、アメリカの制度「ホワイトカラー・エグゼンプション」をモデルとしたものですが、当のアメリカでは、近年残業代の支払いを求める訴訟が頻発し、オバマ政権下で制度が見直され、制度適用のボーダーとなる賃金の引き下げ=適用対象の縮小が行われました。
また、日弁連のアメリカ調査に同行し米国におけるホワイトカラー・エグゼンプションについて研究してきたという弁護士の中村和雄氏によれば、ホワイトカラー・エグゼンプション対象者の残業時間は、非対象者よりも長い傾向にある、と報告しています。
今必要なのはむしろ、残業時間を法的に規制するとともに、労働基準監督署の人員と権限を強化し、残業代未払い等労働者に対する権利侵害を漏れなく監視してゆくことでしょう。
(4)ブラックバイト撲滅へ労働法教育の普及
「アルバイト中、備品を破損したためにその分を給与から引かれた」「クリスマスケーキの販売にノルマを課せられ、達成できなかった分は自費負担させられた」など、いわゆるブラックバイトの存在も世間で問題視され始めています。若者たちが、雇用主の行為の違法性を見抜き、抵抗することができるよう、教育で労働法を教えることが必要です。
参考文献
「ブラック企業 日本を食い潰す妖怪」今野晴貴著、文春新書
「いのちが危ない残業代ゼロ制度」森岡孝二・今野晴貴・佐々木亮 共著、岩波ブックレット
弁護士 中村和雄オフィシャルブログ